天国と地獄
今日は長丁場。木道の存在が本当にありがたいと感じました。
2日目。出発してしばらくは長い下り坂が続きます。下りが終わると、薬師沢小屋までは平坦な道とアップダウンの繰り返しです。登山ではこうした道はごく普通ですが、このあたりの平坦な道は、なぜか笹原が広がる場所が多く、木道が敷かれていることが特徴です。雨が降っていなかったおかげで木道は乾いており、時折涼しい風も吹いてくるので、本当に気持ちよく歩けました。
一方で、アップダウンの道が現れると木道は消え、樹林帯に入ることになります。そこでは道がゴロゴロとした石に変わり、非常に歩きにくくなります。さらに、樹林帯の中は蒸し暑さが加わり、体力を奪われるような感覚でした。この「天国」と「地獄」のような差が交互に現れる道を、薬師沢小屋まで何度も繰り返しました。

昨日はたくさんの花の写真を撮りましたが、それでもまだ撮ったことのない花にちょこちょこと出会います。写真を撮っている間に友達が先に行ってしまい、すぐに姿が見えなくなりました。途中、いくつか気持ちよさそうな休憩ポイントがありましたが、人影はなく、結局友達と再会できたのは薬師沢小屋のテラスでした。


薬師沢小屋のテラスで小休憩。トンボや蝶々に癒されました。友達がこの先のことを知っているかどうかはわかりませんが、私は知っています。これから約2時間の地獄ゾーンに突入するのです。


地獄の2時間
私は慎重派というか心配性というか、登山前によく予定しているルートの状況をネットで調べます。このルートを歩いた方のブログなどを読むと、大体みなさんが口をそろえて「このルートはつらい」と語っています。
ほかのルート(大東新道)でも高天原山荘に辿り着けますが、日本最後の秘境とも呼ばれる場所、雲ノ平を、ほんの少しでもいいからこの目で見てみたいという気持ちがありました。

そのため、覚悟を持って地獄ゾーンに突入します。

このようなゴロゴロと滑りやすい石が続く急斜面を、約2時間ほど登り続けます。樹林帯の中は風がほとんどなく、蒸し暑さが体力を奪います。

さらに、私はここでまた一つアクシデントに見舞われました。飲み水を入れていたペットボトルが手を滑らせて落ち、そのまま石と石の間の隙間に消えてしまったのです。
山の中にペットボトルのようなゴミを残してしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいですが、もうどうしようもありませんでした。
私はできるだけ時計を見ず、標高も確認せず、あとどのくらいの距離があるかも考えずに、黙々と登り続けました。そしてようやく、木道が現れました。
その厳しさは、まさに名実ともに相応しいものであり、それ以上だったかもしれません。
日本最後の秘境
木道は本当にありがたい存在です。
もう何回この言葉を口にしたでしょうか?


雲ノ平の庭園
雲ノ平にある高山植物の群落地には、以下のような8つの名称が付けられています。
・日本庭園:祖父岳の南山腹にある第1雪田と第2雪田の間に位置します。
・スイス庭園:キャンプ指定地のすぐ北側にあり、木道が設置され、周囲には池塘と岩が点在しています。間近に水晶岳を望むことができます。
・ギリシャ庭園:雲ノ平山荘の周辺にあります。
・奥スイス庭園:コロナ※1 観測所の北側に位置します。
・アルプス庭園:祖母岳山頂部(ベンチが設置されています)にあり、雲ノ平山荘から木道でアクセスできます。
・奥日本庭園:祖父岳の北側、薬師沢方面の登山道上に位置し、ハイマツ帯に池塘が点在しています。
・アラスカ庭園:西端に位置し、シラビソ林があり、その景観はアラスカを思わせます。
・祖父庭園:祖父岳の北西にある登山道分岐点で、溶岩が多い場所です。
※1 ここでの「コロナ」はウイルスのコロナではなく、太陽コロナを指します。太陽コロナとは、太陽の外層大気の最も外側にある、100万ケルビン (K) を超える希薄なガスの層です。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
今回は、もちろんすべての庭園を回る時間はありませんでした。ルート上で通過したのは、アラスカ庭園、奥日本庭園、アルプス庭園、ギリシャ庭園、奥スイス庭園の5つです。そして、通過するだけで、ゆっくり景色を堪能する余裕はありませんでした。

以前から、雲ノ平に泊まってすべての庭園をゆっくり回ることを一度やってみたいと思っています。ただ、さすがに「日本最後の秘境」と呼ばれる場所だけあって、その夢を実現するのはなかなか難しそうです。

雲ノ平山荘で昼食をとりました。ここの食堂のメニューはどれも美味しいとの評判で、選ぶのに少し迷いました。最終的に台湾風チキンライスを注文しましたが、これが本当に美味しくて、街のレストランに出しても全く問題ないレベルでした。

「地獄登り」の途中で飲み水のペットボトルを1本失ったため、雲ノ平山荘に到着するまで水を飲むのを控えていました。ここでは、ドリンクにカルピスを注文。体に沁み渡る美味しさでした~~。
ずっと前から、雲ノ平山荘の看板の字はかっこいいなと思っていました。「誰が書いたのだろう?」と気になったものの、「○○題」の○○部分が読めず、詳しいことはわかりませんでした。帰宅してからネットで調べればきっと分かるだろうと思い、特に山小屋の関係者には聞きませんでした。

しかし、帰宅後にいろいろ調べてみたものの、意外と情報が見つからず、最終的に「Microsoft Bing」にも聞いてみましたが、答えはまさかの「わからない」。
あの時、素直に山小屋の関係者に聞いておけばよかったと後悔しています。


高天原山荘
奥スイス庭園を過ぎると、急な下り坂の悪路が続きます。途中には長い梯子がいくつも現れました。チキンライスのパワーでしょうか?足が一番遅い私が、なぜか先頭に立って歩いていました。
それでも、高天原峠に到着したのはすでに夕方の17時前。ここから高天原山荘まではさらに1時間ほどかかります。
全員が山荘に到着したのは18時過ぎ。山では「早出早着」が原則ですが、幸い天候が安定していたおかげで助かりました。山荘のご主人に遅れたことを謝ると、親切に対応していただき、夕食も予約通り用意されていました。
ちなみに、高天原山荘の食事は、太郎平小屋と同じグループの影響か、こちらも「普通」で、平均点くらいの印象でした。


高天原山荘到着が遅れたことで、もう一つ大きなデメリットがありました。それは、日没前に温泉に入れなかったことです。山小屋の近くにある「高天原温泉」は、日本一遠い秘湯と言われています。ここまで来たら、入らないわけにはいきません。
「高天原温泉」には三つの露天風呂があります。一つは女性専用の仕切りがある露天風呂で、残る二つは混浴風呂です。私は最初、女性専用風呂の隣にある風呂を男性専用だと思い込んでいましたが、高天原山荘のホームページによると、こちらも混浴風呂のようです。
三つの露天風呂では、毎日19時以降に必ずどれか一つの掃除が行われます。この日はちょうど女性専用風呂の掃除日でした。うちのグループには紅一点のYさんがいたため、山小屋のご主人と相談した結果、こんな時間では他に入浴客は来ないだろうということで、Yさんは女性専用風呂の隣の混浴風呂を使用し、男性陣は沢沿いの混浴風呂を使うことになりました。
親切な山小屋のご主人、本当にありがとうございました。
温泉に辿り着いたときはまだ周囲がうっすら見える明るさでしたが、入浴を終える頃にはすっかり暗闇に包まれていました。山小屋に戻る途中、ヘッドライトを消して空を見上げると、満天の星が広がっていて、思わず歓声をあげてしまいました。星には詳しくないのですが、一番わかりやすい北斗七星と、その延長線上にある北極星をすぐに見つけることができました。
出発前に「北極星を中心にカメラを向けると、星が描くきれいな円形の軌跡を撮影できる」という星空撮影のテクニックを一応勉強していましたが、このときは疲れ切っていて撮影する気力は全くありませんでした。
長い一日が、ようやく終わりました。
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